小売店の市場調査。競合店、他店、参考店リサーチの考え方
雑貨・ギフト企業も行う他店舗リサーチ。すべての関連企業が、多頻度に行うべき必須業務である。
ご存じのように、対一般消費者向けのビジネスである小売業は他の業種に比べて、簡単にその企業のノウハウを調べることができる。各店のノウハウは、現場=店頭でほぼすべてと言っていいほど露出しているからだ。
商品構成、取引先情報、接客方針、販売促進方法など。対象店の売場を精査することにより、たくさんの有意義な情報が手に取るようにわかる。そして店頭では一見わからないはずの、売上、利益、後方部門のノウハウや今後の事業計画までをも推測することが可能だ。
今号では、雑貨・ギフト小売業の読者の方に向けて、店舗リサーチ/市場調査のポイントとヒントを考えてみたい。他分野小売店の読者の方の参考になる点もあるだろう。
新店オープン時の参考店や競合店のリサーチを例として取りあげるが、開業後の運営の為のリサーチにも、その都度活用してもらえるものと考えている。
市場調査。店舗調査。店頭リサーチの現状
一口に店舗リサーチ/市場調査と言っても様々な目的と、その手法が数多あり、100の企業に200以上の方法があると言える。そのどのリサーチ方法もその企業にとって有効なもののはずだが、その手法や調査結果の活かし方に絶対の自信を持つ企業はあまりないのではないだろうか。
比較的大規模な多店舗展開企業の中には、いつのまにか本来の目的を忘れ、リサーチ業務が形骸化(行った、見た事で満足し、業務終了)しているところがあるそうである。一方、個人店などの小規模企業の場合は、リサーチとは他店の取組のうわべのみを“真似る”ために行うことと考えているところもあると聞く。
「競合店調査にはよく行っている」「話題の店は時間をとって必ず行くようにしている」「良いところはすぐ取り入れている」等の声が聞こえてきそうだが、重要なのは“行った”“見た” “真似る”ことだけでなく、どこに行くか、どう調べてまとめるか、どう活かすか、ということだろう。
若い女の子向けの商品を販売する店に、オジサンが場違いなスーツ姿で出向き、店から不審者扱いされたという例。調査レポート(メモ)や報告内容に「良かった」「悪かった」「つまらなかった」等のあいまいで抽象的な表現がたくさん見られる例。調査対象店の現況を盲目的に“お手本”にしてしまう例。自店で扱いのない商品をリサーチ対象店で“発見”し、戦利品よろしく深く考えずにそのまま仕入れたがる例など。店舗リサーチに関してのちょっと滑稽なエピソードは少なくない。
市場調査「参考店」調査は基準づくりとヒント探し
参考店とは立地やエリアに関係なく、自店のコンセプトや商品テーマに比較的近く、または関連が深く、見るべき点が多いと思われる店のこと。*余談だが、業界関係者からリサーチ必須の参考店と見なされることは一種の名誉かもしれない。
参考店リサーチは、まず自店の企画立案時の一定の基準づくりの為に行う。新店の場合は、過去の営業の情報の蓄積がないのが普通。もちろん商品展開、売場構成、店内の販促手法、接客方針などを、白紙の状態からひとつづつ検討、計画していくこととなる。その際の材料になる各情報を集めることが、参考店リサーチのひとつめの目的である。
それらの参考店の調査結果をひとつの基準として、「A店より商品展開を広く(多く)」「B店より丁寧な接客を」というように計画に活用する。対象店自体の良し悪しは別として、リアルな店のありさまは、より具体的な計画を立てる際の重要な参考となる。しかし調査結果はあくまで参考であり、事情の違うリサーチ店の現状を“お手本”として、やみくもに模倣することはやめるべきだろう。
加えて、自店の開業前と後を問わず、新たな商品分野とカテゴリー、販促手法などのヒントを得ることがもうひとつの目的。雑貨・ギフト小売店だけでなく、商品分野や業種(業態)が違いながらも関連性が高いと思われる店舗(飲食業、サービス業)、施設も積極的にリサーチしたい。
市場調査。店頭リサーチ対象店をどう決めるか
参考店の候補探しにマスコミ(雑誌、新聞、TV)やインターネット(ホームページ、ブログ、メールマガジン他)からの情報は欠かせない。しかし、(信頼性の高い専門誌、業界紙誌、専門家の執筆記事は除く)各一般メディアは新規性、話題性=ニュース性のある店の紹介記事が中心。一般読者や視聴者が喜ぶ情報を、時には多少の誇張を交えて提供しているのが実情。
もちろん、記者はマスコミのプロであっても小売りのプロではないことはだれもが承知している。だが、いったん活字になったり、電波に載り、ちょっと“箔がついた”紹介店の記事やデータをプロの小売業者がリサーチ対象店の重要な資料として、扱う場面も多く目にする。小売業の門外漢の記者が、自身の担当の誌面や番組のテーマに添う、誌面で写真映えする、と言う理由だけで選んだかもしれないのにだ。
そう、その記事は紹介した店のビジネスとしての実績や成功を保証したものではない。過去に頻繁にマスコミに取りあげられた店が、現在もすべて好調ではないということがその証だろう。「雑誌に出ていた」「TVで紹介されていた」ということだけで、リサーチ対象店を選ぶことは避けたいものである。
ご存じのようにブログやメールマガジンを含むインターネットからの情報は、アマチュアの個人や一企業の「ひとりよがり」なものの場合(だから面白いとも言えるのだが)もあり、こちらは更に玉石混淆であることを忘れないようにしたい。
一方既存の取引先や業界関係者からすすめられたリサーチ店候補は、華やかさや話題性よりも、その店の実績を踏まえた場合が多く、重要な情報ソースになるだろう。
競合店調査は日々の戦略のため
競合店リサーチは、エリアでの日々の戦略研究のためのもの。同一商圏にあり、コンセプト、商品構成等に自店との共通点がある店が競合店。その商圏のお客様が自店と比較するだろうと思われる店=競争関係になりうる店のことだ。
雑貨・ギフト小売店は、コンセプトから、ショップデザイン(外内装)、品揃えに至るまでの各店の個性が身上。そっくりの店構えで有名メーカーの同一商品の価格競争(値引競争)をするスーパーマーケット、ドラッグストアなどの日用品(最寄品)を扱う小売業態は、通常は競合店ではないだろう。
雑貨・ギフト小売店の場合は、価格調査以上に、その商品の単品および、分類、展開方法の魅力(トレンド性、付加価値、情報性など)、ショップの提案力(外内装、接客、店内イベント、システム、販促活動など)を調査することが大切になる。
中には近隣に競合らしき(自店と似た) 雑貨・ギフト店がないという場合もあるだろう。そんな場合は多少遠方でも、共通点が少なくとも、お客様が比較しうる範囲の店をあえて同一商圏の競合店ととらえて調査するべきである。
分野が違う小売業(ファッション、食品等)、飲食業(カフェ、レストランなど)、サービス業(美容室、ネイルサロン、ゲームセンターなど)も、ターゲットが近い場合は、関連するリサーチ対象店として意識するべきだろう。
競合店調査の進め方としては、商圏内(例えば車移動15分、最寄駅より徒歩10分以内など)の地図を用意し、各競合店、関連店の位置をマークすることから。できるだけ短期間に繰り返し行い、日々の動向を観察しつづけたい。
何を調べるか
店内(店外)で調査可能な項目を次の表にまとめてみた。小売店を構成するソフトとハード面の要素を書き出しただけなのだが、どれもが貴重な情報になりうる。
店頭に露出した商品をカウントすることで在庫高。訪問時間中の買上客数、買上金額を基にその店の全体の売上高。従業員の人数とレベル(年齢や業務の習熟度)を見るだけでも、その店の接客に対する方針や人事計画、あるいは人件費のかけ方までが想像できる。*売場に転がっている段ボール箱(!)の側面に印刷された社名から仕入先ルートを推理するリサーチ達人もいる。
開業後は、その都度必要な要素別でのリサーチという事になるであろうが、開業前のリサーチでは「すべて」が調査項目となるだろう。
なじむ服装。リサーチマナー。一種のミステリーショッパーだから
当たり前だが店は販売の為に営業をしている。決して、同業者にリサーチさせるために営業しているのではない。どこの店でも、リサーチ目的のみの来店者は入店できないはずだ。“お客様”として自然な立ち居振る舞いで入店することが基本中の基本。
そして例え競合店(ライバル)であっても、あからさまなリサーチは失礼千万。無用な迷惑をかけないマナー=一定の敬意を持って行うべきである。
有名店の新規オープン直後。それが例え若者向けのカジュアルな楽しい店であっても、女性向けの美容関連の店であっても必ずといっていいほど見かけるのが、ダークスーツ姿の男性のリサーチグループ(?)。眉間に皺を寄せた真剣な面持ちで店内を調べ回るダークスーツの男性は相当の違和感である。リサーチにはできるかぎり、その店に合った服装や状態(時には男女ペア、子供連れ)で望みたい。
当然、店内での写真ビデオ撮影やスケッチは禁止されているだろう。例え明示されていなくとも、通常のお客様とあきらかに違う撮影などの行動はやめたい。詳細なメモ取り、店頭でのミニ会議(同行者との意見交換)も同様だ。メモは店を出てから。機材に頼って記録するよりも、自分の頭にしっかり記憶することが大切。店舗リサーチにもTPO(time・place・occasion)が必要だ。
リサーチ店では必ず買物をする。少額の商品ひとつでも、実際にその店で買うことで、会計対応、包装、ポイントカード(スタンプサービス)など更に多くの事が見えてくる。
ミステリーショッパー(覆面調査員)とは、第三者に客として来店してもらい自店の調査を依頼すること。自店の主にサービス面の弱点を点検、評価してもらい改善する。店頭のスタッフに知らせずに、調査員にお客様として来店してもらう。
市場調査、店舗リサーチをどうまとめるか
ともすれば、印象論に終始しがちなリサーチ結果。印象も大切だが、併せてできるだけデジタルな表現で具体的に記録したい。「高さのある棚什器」ではなく、「高さ200cm程度の棚什器」。「とてもにぎわっていた」ではなく、「調査時30人程度の入店者。とてもにぎわっている印象」と表現。メジャーやカウンター(数取器)などはもちろん、リサーチ店内で使用できないが、自身の歩幅、腕の長さなどのサイズをはかり、メジャー替わりにすることなどである程度の計測は可能なはず。
商品のスタイルやテイスト、外内装のデザイン、店内レイアウトなど文章で説明しにくいものは、簡単なスケッチや図を用いるなど、ビジュアルでわかりやすい表現を心がけたい。
リサーチ店ごとにバラバラと自由な書式でメモやレポートを作成することはムラとムダが多い。どんな店舗のリサーチ結果も容易に記入できるような統一フォーマット(記入用紙)を用意することが手間の軽減、調査項目の忘れ防止につながり、各店の調査結果を集計、比較分析する場合にも効率的だ。
店舗リサーチは自店(企画運営)をさらに、個性的、スマートに発展させるための情報収集。逆説的だが、他店を調べれば調べるほど、自店(計画)の長所短所が浮き彫りになってくるはずである。
月刊パーソナルギフト2009年9月号掲載 関連内容ははじめる雑貨屋さん、雑貨力に多数掲載